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02.27
Sun
おじいさんがおぼつかない足取りで自転車を押しながら歩いてくる。
自転車のカゴにはスーパーの買い物袋。
私はその心配なようすが気になっておじいさんを見た。
自転車を押してあげようか?
だけどおじいさんが自転車を支えているのと同時に、自転車がおじいさんを支えている。
私は声をかけずにそのまま通り過ぎた。

ところが時間が経ってもそのことが頭から離れない。
そして時間が経つごとに、おじいさんに声をかけなかった自分への罪悪感のようなものがつのっていく。
何か手伝えることがあったかもしれない。
もし手伝えることがなかったとしても、声をかけることが、おじいさんが家まで歩くすこしの元気にはなったかもしれないのに。
どうして声をかけなかったんだろう?
私の内にいる、優しくない私と優しくなりたい私。
きっと今までも何度もすれ違ってはいたんだろう私と私が、はじめて正面を向き合って見つめあったような、心の中の葛藤を感じながら、しばらく過ごしていた。

それから一週間ほど経った頃だろうか。
私はスーパーの入り口近くで、野菜や果物を見ていた。
入り口のドアが開き、冬の空気の中から暖房の効いた店内に人が入ってきて息をつき、「あぁ・・ぬく・・」と言うのが聞こえた。
その心からそのまま漏れ出たような声に私は振り向き、目が合ったその人と、何かを共有するかのように微笑みあった。
それはあのときの、あのおじいさんだった。
そのとき、幸せな時間が流れたと同時に、私は許された気がした。



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