丘の上の、木立の葉がまだらに陰をつくっている場所に椅子を置き、腰をかけるとすぐに一匹のクマバチが飛んできた。
頭のすこし上、半径1mあたりを偵察機のように飛んで、他に飛んでいる小さな虫と体が触れそうなくらい距離が近くなると、素早く追いかけて、また頭の上あたりに戻ってくる。
他のクマバチが飛んできたときには、ずっと羽音を響かせているホバリングの様子とはかけ離れた、思いもよらない速さで飛行して、どこかへ行ってしまったかと思うと、草の上に揺れる丸っこい影と羽音がまた戻ってくる。
対岸の景色に映えていた桜のピンクはもうほとんど薄くなった。
気持ちのいい春の陽気で、ぼんやり時を過ごしていると、そんな調子でずっと頭の上を飛んでいたクマバチが、こんどは私の目の高さで飛ぶようになった。
これは、いい加減に帰れと言われているような気がして、丘を降りた。
道の途中で、黒い体に黄色い線が縦に入ったトカゲと出会った。
トカゲはすぐに草の中に見えなくなったけれど、つい最近、友人からトカゲの話を聞いていたものだから、私はしばらくそこに立って居て、友人が野菜を育てている場所にある穴に住んで、友人とときどき顔を合わせていたけれど、ある日猫に捕まってしまったトカゲも、こんな模様だったのかしらと思っていた。
そうして、何の気なしに、足の位置をずらそうと左足を動かしたら、さっきのトカゲがビックリして慌てた様子で草の中に入っていった。
いつの間にか足元に来ていたらしい。
それから私は動かないようにしてそこに居ると、入っていったのとは少しずれた位置からまた出てきた。
尻尾のところを蟻が歩いている。
よく見ると蟻以外にも名前の知らない虫がたくさん歩いている。
トカゲは何にも気にする様子もなく、いつもトカゲがそうするように、首を少し上げて太陽の光を浴びるようにしばらく道端に佇んで、またトカゲらしい動きをしながら草の中に入っていった。
