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02.08
Fri

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いつもと変わらない午後の町をひとすじの風が吹きすぎてゆきました。
風は人々の肌にしめっぽく触れまわり、生ぬるい空気をのこして走り去りました。
今まさに遠くの空ではひとかたまりの黒い雲が現れて、それがだんだんと大きくなりながら町の方に流れてこようとしていました。

町の人々は急いで帰りの支度をはじめました。
それぞれが慌ててバスや車に乗り込む間に、黒い雲は山ひとつぶん大きくなりました。

強く吹くようになった風にのって、山みっつぶん、よっつぶんと、大きく分厚くなった黒い雲が、
ついに町の端っこにある一番高い建物のあたりにきたときには、みんな避難していました。

人っ子ひとりいない町を闇が包みました。
そしてほんのひととき耳の奥が痛むようなしんとした音が町を支配しました。

家の中に隠れていても、それは恐ろしいものでした。
風の音は、怯える人々をあざ笑うかのようでした。
空に稲妻が走りだすと、こんどは断末魔の叫びになって家の隙間から入ってきました。

町中にあられのような雨が打ちつけ、いよいよ荒れだした嵐は怒り狂った大男のようでした。
雨、風、雷、その全部をめちゃめちゃに、力任せにふりまわして暴れまわります。
大きな雷鳴が響くたびに体を震わせながら、人々は嵐が過ぎ去るのを家の一番安全なところに隠れて待っていました。

方向を失った雨風に音をたてて震えるガラス窓の外は、一体どうなっているのでしょう?
ほんのすこしだけ、そう思って、母親がしっかり閉ざしたカーテンを、ほんの小さくめくった男の子がいました。
男の子は、真っ暗な窓ガラスに、恐る恐るゆっくり顔を近づけました。
うんと顔を近づけないと暗くて何も見えなかったからです。
すると、雨風の向こうに、反り返ってへし折られそうになりながら、力をふりしぼってなんとか持ちこたえている一本の木が見えました。

そして、それは一瞬の出来事でした。
いままでで一番おそろしい雷鳴が耳の奥にまで轟いて、ほとんど同時に、目の前にオレンジ色の光が飛び散りました。
真っ黒い空にむかって、一本の木が、美しい火花を吹き上げました。

嵐は夜のうちにとなりの町に去っていきました。
いつもよりかえって静かな夜になりましたが、男の子は、なかなか眠ることができませんでした。
あの美しい火花を見たことに、気持ちが落ち着かずに眠れなかったのです。
男の子が眠りにつくまで、いつまでも胸のあたりでオレンジ色の光が瞬いていました。

次の日、学校で男の子はオレンジ色の光のことを、とうとう誰にも言いませんでした。
実際、あの火花を見たのは、男の子の他に誰もいなかったのです。

だけどいつか、もっと大きくなってから、別の時間、別の場所で、同じように光を見た誰かにきっと出会うことでしょう。



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