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05.10
Mon

中学1年生の運動会。私はリレーのアンカーだった。
別のチームのアンカーには、小学校からいっしょのAちゃんがいた。
私は小学校のときにAちゃんのこすいところを見てから、Aちゃんのことが好きではなかった。
バトンがAちゃんに1番に、私にはビリで渡ってきた。
バトンを受けとると、私はものすごく速く走った。
絶対にAちゃんを抜かす、と心の中でつよく思っていた。
他のチームの子たちをつぎつぎに抜かし、カーブを曲がり、直線にはいって、距離はぐんぐん縮まって、気がつけばAちゃんの背中はもうすぐ目の前にあった。
このまま走れば抜かせる、そう分かった瞬間、私の中で信じられないようなことが起こった。
まるで雷に打たれでもしたかのように 「もう抜かさなくてもいいんだ」 という想いが私をつらぬいたのだ。
そして、その一瞬の光に照らし出されるように、わーわーと応援しているチームメイト ⦅1番でゴールしたらみんな喜ぶだろうな⦆ や、大きな声で 「逃げ切れー!」 と叫んでいるAちゃんの担任の先生 ⦅私はこの先生のことも好きではなかったから、抜かした方が気分はいいだろうな⦆ とか、このリレーを見ているたくさんの人たち ⦅ここで失速したら、はじめにスピードを出しすぎて力がなくなったと思われるだろうな⦆ とか、そんなことが全部見えた。
そんなことが全部見えて、それでも、それでもやっぱり自分の中に閃光のように起こった想いがとてもつよくて、私は瞬間的にAちゃんを抜かさない程度にスピードを落として、2番でゴールしたのだった。
こんなこと、チームメイトや友達には言えないし、説明もできない。
だから誰にも言わずに、ただ雷に打たれた跡がのこるような鮮烈な印象と、不思議だった気持ちとを、この年になるまでずっと持ちつづけていた。
なにかの折に思い出しては、あれは何だったのだろうと考えていたのだけれど、なんだか今は、とても私らしい象徴的な出来事だったような気がしている。




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04.27
Tue
春の陽に光る、うすく透きとおった月桂樹の若葉を見ていると、去年の7月頃の記憶が浮かんできた。

私は、しっかりと分厚くなったのを指でたしかめながら、月桂樹の葉を摘み取っていた。
すると後ろから「剪定しとるん?」と、近所のおばさんが声をかけてきた。
このおばさんには、私には見えないものが見えている。
いつも、見えないものたちに向かって、怒りながら歩いているおばさんだ。
怒っている様子しか見たことがないし、挨拶することはあっても、話しかけられるなんて初めてのことで、私は驚きながら「うん。」と答えた。
これからどこかへお出かけなのか、いつもより身ぎれいな様子をしている。
興味深そうに、私のプランターの植物たちをぐるりと見回してから、「トマトがなっとるやん!」と言う。
そうそう、これは初めて種を蒔いて、種から芽が出て、育って、実をつけてくれたトマトなので、私も嬉しくて「そうなの!」と笑顔で返したのだ。
そしたら、「ふーん。楽しみやね。」と言ったおばさんの顔が、にっこりと、、そう、にっこりと笑ったのだ。
私はもうびっくりしてしまった。
だってその笑顔がとてもキラキラしていて、「えー!?そんな綺麗な顔で笑えるんだったの!?」という驚きと、予想外のあまりの出来事に、おばさんが行ってからも、しばらくぼんやりしてしまった。

あれからも、おばさんはやっぱりいつも何者かに怒りながら歩いているし、笑っている顔も見たことがない。
だけどあの時の綺麗な顔は、今もちゃんと私の中にのこっていた。




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03.23
Tue
強風、霰、雨、晴れ間。変な天気の一日。寒い。
夜がくる手前。渡船はまだ二隻うごいている。
甘美な空が天をおおっている。透明でどこまでも深い青。
街も海も私も、みんな紺青の中にいる。
小さな千切れ雲が遠くに並んでふたつ。
街の灯りをはさんで、海は空よりもすこしだけ黒の多い濃い色をして、景色の重心を下にたもっている。
景色の中から突然姿を現したように、渡船が音をたて、大きく迫ってくる。
離れていくもう一隻は、景色の中に溶けていくようだ。
船がはしると、海は妖艶にとろとろと船のまわりを動く。
見上げると、月が涙のひとしずくのような形に、白く輝いていた。



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03.17
Wed
晴れて朝から暖かい。
自転車で買いものに行く。
気持ちよくペダルをこぐ。
途中帽子が飛びそうになって、手で押さえたり、うつむき加減になったりして、気にしながら走る。
この暖かさにもっと身も心も軽くなって走りたいのに、そうできなかったから、帰ったら帽子が飛ばない工夫を考えようと思う。
幼稚園の黄色い送迎バスが止まっていて、脇に立った5,6人の親御さんが、バスに向かって一生懸命手を振っている。
私からバスの中は見えないけれど、きっと子供たちは窓に張りつくようにして手を振っていて、親はそれに答えているのだと思う。
これから子供たちは幼稚園で過ごして、親たちは仕事や家事やいろいろな用事をして、お迎えのときにはまた子供たちは親の顔を見て喜び、駆けていくのだろう。
そんなようすを想像して、子供たちは毎日なんて劇的な別れと出会いを繰り返しているのだろう、と思う。
そんなことを考えながら、自転車をこぐ。



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03.13
Sat
ひんやりとした雨模様のいち日。
夕飯を食べ部屋にいると、外を吹き抜ける突風の音。
すこし考えて、背の高い植物を家の中に入れる。
とぎれとぎれに強く吹き抜ける風。
春の嵐、と思いながらぼんやり寝転がって聞いている。
雨粒の大きいのが、ふいにパァーっと屋根を打ったりする。
突然、心臓がドキンとして、まるで、ちょうど真上に雷様がいるような唸りがして、部屋全体が揺れる。
つぎは裂けるような音がくるのかと身構えたけれど、それはこなかった。
すこしして、カーテンの隙間が光って、音はもう、すこし向こうに離れたところで鳴っている。
またすこしして、光って、音はもうずいぶん遠くに聴こえた。
今はこんなふうだけど、明日の予報には晴れマークを見た気がする。
私の心にも春を待つ気持ちがふくらむ。



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