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02.18
Mon
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その赤い屋根の家は静かに佇んでいました。
家の周りには草木がほどよい間隔で生え、緑の間から季節ごとの風が吹き抜けました。
日当たりの良い場所には、ちいさな花が気持ちよさそうに咲いていました。
葉っぱはゆったりとのびやかに伸びていました。
そこには、母親と少女が暮らしていました。
庭のちいさなウッドデッキには、ちいさなテーブルとくつろげる椅子がおいてありました。
ふたりは、その椅子に座って、雲がゆっくり流れたり、早く流れたりするのを眺めて過ごしたものでした。

春がもうすぐ近い、太陽が強く照った日でした。
どこからか甘い匂いが流れてきて、少女は表へ出ました。
その匂いは、少女に今までに見たこともないような、とても綺麗な花を想わせました。
どんな夢のように綺麗な花の匂いかしら、そう思うと、少女は、ふわふわした足取りで歩き出しました。
家の庭の花は、ちいさくて、ひそやかで、どこか物足りない気がしていたのです。

匂いに誘われるまま、何本か向うの通りに出ました。
そう遠くへ来たわけではないのに、まったく見慣れない、見たことのない景色でした。
それでも、匂いはいっそう強くなっているようなので、少女はあまり不安にならずに歩きました。

すると、向こうに、そこだけ濃い緑に覆われた一軒の家が見えました。
少女は、ここだわ、と思いました。匂いもそのことを教えていました。
バリケードのような高い垣根が家を囲んでいました。
少女はぐるりを回って、ようやく、隙間から中を覗いて見渡せる場所を見つけました。

中はいっそう濃い緑でひしめきあっていました。
少女はゆっくりと庭を見まわし、どこかに咲いているはずの綺麗な花を探しました。
ところが、想い描いていたような花はどこにもありませんでした。
がっかりしましたが、隙間をなくすようにビッチリと植えられた草木や、距離が近いためにお隣と絡まり合うツタの様子は、家の庭よりもずっと賑やかで、物足りないかんじはしませんでした。

夜に足元を照らすライトもちゃんとついていました。
家の庭は、夜になると電灯のあかりもなく、あたりはひっそりと静まり返ります。
黒い影になった木々が揺れて、バサバサと翼の音が響くと、ひとり森の中にいるかのようにドキリとしました。
たまに遠くからキャキャキャッと正体のわからない鳴き声のようなものも聞こえました。
少女はこわくて、それもあまり好きではありませんでした。

こんな風な庭もあるんだわ、そう思って、垣根から身を離そうとした、そのとき、家のドアが開いて中からおばあさんが出てきました。
おばあさんはすぐに少女に気がついて、にっこり微笑んで、手招きしました。
少女は、どうしたものか、すこし戸惑いました。
いかにも色々な花のことなど知っていて、なんでも教えてくれそうな、優しそうなおばあさんです。
そうだ、あの甘い匂いのこともきっと知っているに違いないわ。
少女は、夢見ごこちな笑顔を返しました。

その夜は、まあるい月が高く浮かびました。
赤い屋根の家には、いつもそこに現れるトカゲが軒先の壁に張り付いていました。
月は、白いトカゲを、美しく、透明に照らしました。




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02.08
Fri

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いつもと変わらない午後の町をひとすじの風が吹きすぎてゆきました。
風は人々の肌にしめっぽく触れまわり、生ぬるい空気をのこして走り去りました。
今まさに遠くの空ではひとかたまりの黒い雲が現れて、それがだんだんと大きくなりながら町の方に流れてこようとしていました。

町の人々は急いで帰りの支度をはじめました。
それぞれが慌ててバスや車に乗り込む間に、黒い雲は山ひとつぶん大きくなりました。

強く吹くようになった風にのって、山みっつぶん、よっつぶんと、大きく分厚くなった黒い雲が、
ついに町の端っこにある一番高い建物のあたりにきたときには、みんな避難していました。

人っ子ひとりいない町を闇が包みました。
そしてほんのひととき耳の奥が痛むようなしんとした音が町を支配しました。

家の中に隠れていても、それは恐ろしいものでした。
風の音は、怯える人々をあざ笑うかのようでした。
空に稲妻が走りだすと、こんどは断末魔の叫びになって家の隙間から入ってきました。

町中にあられのような雨が打ちつけ、いよいよ荒れだした嵐は怒り狂った大男のようでした。
雨、風、雷、その全部をめちゃめちゃに、力任せにふりまわして暴れまわります。
大きな雷鳴が響くたびに体を震わせながら、人々は嵐が過ぎ去るのを家の一番安全なところに隠れて待っていました。

方向を失った雨風に音をたてて震えるガラス窓の外は、一体どうなっているのでしょう?
ほんのすこしだけ、そう思って、母親がしっかり閉ざしたカーテンを、ほんの小さくめくった男の子がいました。
男の子は、真っ暗な窓ガラスに、恐る恐るゆっくり顔を近づけました。
うんと顔を近づけないと暗くて何も見えなかったからです。
すると、雨風の向こうに、反り返ってへし折られそうになりながら、力をふりしぼってなんとか持ちこたえている一本の木が見えました。

そして、それは一瞬の出来事でした。
いままでで一番おそろしい雷鳴が耳の奥にまで轟いて、ほとんど同時に、目の前にオレンジ色の光が飛び散りました。
真っ黒い空にむかって、一本の木が、美しい火花を吹き上げました。

嵐は夜のうちにとなりの町に去っていきました。
いつもよりかえって静かな夜になりましたが、男の子は、なかなか眠ることができませんでした。
あの美しい火花を見たことに、気持ちが落ち着かずに眠れなかったのです。
男の子が眠りにつくまで、いつまでも胸のあたりでオレンジ色の光が瞬いていました。

次の日、学校で男の子はオレンジ色の光のことを、とうとう誰にも言いませんでした。
実際、あの火花を見たのは、男の子の他に誰もいなかったのです。

だけどいつか、もっと大きくなってから、別の時間、別の場所で、同じように光を見た誰かにきっと出会うことでしょう。



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02.05
Tue


空気は冷たいけど
まるで春みたいな陽射しの朝の海。光の雨。



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冬至の頃、

「今が一番日が短いんだよね。」
「これからちょっとずつ長くなっていくんだね。」
「冬至って割と冬の早い時期なんだね。」
「冬の一番寒い時には日は長くなってきてるんだね。」
「ありがたいね。」
「希望だね。」

と言った友人との会話を思い出す。




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12.26
Wed
ストーブをはさんで話をしているうちにお腹がすいて、
冷蔵庫にあった野菜を煮てお味噌を溶いて食べた。

潰し方の荒かったお味噌の豆が「砕いたピーナッツみたい。」と友人が言う。

冬の寒い日に、ごはんを食べながら、なにか大切な
(たとえば、寒さにふるえてケチをつけるのでもなく、春を夢想するのでもなく、
 秋に後ずさりするのでも、夏の記憶を掘り返すのでもなく、冬の楽しみを分けあえるような)
話ができる友がいるというのはとても幸せなことだと思う。

ちょうどその日届いた、青森の友人からの贈り物も食べた。
日ごろ連絡を取り合う訳でなくても、素直に想ったり想われたりしている気持ちが
こうしてふいに現れるのは、何かのご褒美だろうか。

静かな夜の、部屋の時間の流れと一緒に、外では徐々に霧がたちこめていたらしく、
夜中近くに外に出たときには、一面が霧に包まれて、どこからともなく甘い匂いを漂わせていました。

夜霧って甘い匂いがするものなのかしら。
それとも向島の夜霧が特別に甘いのかしら。

対岸の、灯りが滲んだ街並みとそれを映す海の景色は、しっとりうるんでいました。

次の日の朝も霞がのこっていて、
あの甘い匂いも、朝日の中にうすくのこっていた。


IMG_2724.jpg


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11.24
Sat



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(使うもの、メニュー内容など見直し、価格変更しています。)




最近手にした本に


人にとって、かならずいのちを養うはずのものを食す。
手、足があたたまる。頬に赤みがさす。
やる気が出てきたなどの至ってあたり前な体の反応、この薄紙を重ねるような手応えに人は頼れる自分のいのちに気づく。
その頼り甲斐の集積は、やがて何かをあるいは誰かを信じる力に昇華してゆく。
信じるという場から希望が育ち、愛の土目はおのずから仕上がっていくのではないか。


とあって、ほんとうに、そうならいいな、と思う。




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